健康の基が体力にあるように、おいしくて安全・安心ななお茶が育つ基礎も茶園の『地力』(土の生産力)にあります。
山英が推進するSADAJI農法は、土壌の有効微生物を増やして茶の木の根を健康にします。茶園を昭和30年代の『地力』と自然のサイクルに復帰させ、おいしいお茶を育てる農法です。化学肥料や農薬への依存を減らし、病害虫に強い茶の木を育てるこの農法は、残留農薬の心配のないお茶を栽培するにあたって最適な栽培方法だと考えています。
自然界では、小さな生物をより大きな生物が食べ、その生物をさらに大きな生物が食べるという生命の営みが行われています。生涯を終えたものは 小さな生物によって分解され、次の生命の栄養となります。この繰り返される生態系の営みが「食物連鎖」です。
土壌の中も同じで、微生物をミミズのような小動物が食べ、その小動物の死骸がまた次の生命を養います。ミミズなどの小動物の活動によって生じた土壌の中の微細な空間には水や空気が保持され、その水や空気が枯葉や死骸などを分解して、微生物の栄養源をつくります。そして、これらの微生物が、有機物を植物が吸収しやすい栄養分に変えるという大切な役割を果たすのです。
スムーズな食物連鎖が行われる土壌こそ、すなわち『地力』のある土壌です。小動物や微生物が棲みにくい土壌とは、自然のサイクルから外れた『地力』のない土壌だといっても過言ではありません。
日本の農業が化学肥料による栽培に力を入れ始めたのは、食料の増産が急務とされた終戦後の昭和25年頃からで、昭和35年頃までは化学肥料の施肥量も適正であったため土壌の『地力』は保たれていました。
元気のよい土壌は与えた栄養をよく蓄え、作物はよく育ちます。そのため、誰もが競うように化学肥料を大量に与え続けました。そのつけは10年後にやってきました。あまりの過剰施肥のため土壌は塩漬け状態になり、そこに生息していた微生物の数が激減した『地力』の低い土壌になったのです。
昭和45年頃までは効果的だった窒素肥料が徐々に効かなくなったのは、それが原因だということに当時も気づかなかったわけではありません。しかし、品質と収量を落としてまで施肥量を減らす決断はできませんでした。逆に、施肥量はその後も増加の一途をたどり、土を痛めつけてきたのです。
茶園における窒素肥料の過剰施肥は、土壌の活性化阻害や、茶の木の根が傷つくことによる肥料の吸収力の低下などを招きます。そのことがさらに過剰施肥を助長するという悪循環に陥っていたのです。そして、茶園の排水や周辺水域では、硝酸態窒素が高濃度で検出され、pH値も低下する水質汚染に至りました。さらに、地球温暖化に影響をおよぼす亜酸化窒素の発生など環境への負荷の増大をもたらし、今後の茶業の継続に重大な危機を招いています。また、窒素の過剰施肥は初冬の凍害や越冬中の青枯れの増大、耐寒性の低下、輪斑病の発病葉率や、有害センチュウ・カンザワハダニなどの発生密度の増加などを引き起こしているのです。
規定値の倍以上の窒素肥料を与えないと品質と収量を維持できなくなった土壌と根では、この悪循環を断ち切ることはできません。
そこで静岡県では、茶園の面積10aあたりの窒素肥料の施肥量を40kg以下とする目標を設定しました。静岡の重要な産業である茶業の未来を守る ための施策です。
SADAJI農法で土壌と根を昭和30年代の状態に戻せば、この目標もクリアできます。有用土着菌(有効微生物)をベースにした有機肥料を使うこのSADAJI農法は、食物連鎖を活性化し、土壌の自然のサイクルを正常化します。土壌の『地力』は回復し、施肥量を抑えても品質は維持され、しかも収量は増えるという画期的な農法です。すでにSADAJI農法を実践している茶園では施肥量・収量ともに優れた成果を生み、その実績が認められて「天皇賞」や「農林水産大臣賞」、「朝日農業賞」の受賞という栄誉も輝いています。
食の安全や地球環境のために、おいしさや健康のために、日本の農業の安定した未来のために、自然な農地を取り戻すことは急務です。その中で、有効微生物を利用して『地力』を回復させるSADAJI農法が果たせる役割は少なくありません。SADAJI農法で育てる自然の恵みにあふれたお茶は、それを飲む私たち人間にも大いなる自然の力を与えてくれることと思います。
土壌中と地上における食物連鎖のイメージ
硝酸態窒素は硝酸塩として含まれている窒素のこと。窒素化合物が酸化して作られる物質で、富栄養化や地下水汚染の原因となる。人体内に取り込まれると亜硝酸態窒素に還元され酸素欠乏症を引き起こす可能性があり、発ガン性も指摘されている。
二酸化炭素、メタンなどとともに代表的な温室効果ガスのひとつで、一酸化二窒素とも呼ばれる。温室効果の強さは二酸化炭素の100倍とも200倍ともいわれている。1997年の京都会議において日本の削減目標が1990年の排出量に対し6%と定められた。
昭和25年より独自の視点から肥料開発に取り組み、SADAJI農法を作り上げる。SADAJIは名前の定次から命名されている。
昭和55年頃より「30年前の土壌に戻そう」と醗酵肥料の開発に取りかかりました。
土壌の活性化には有効微生物の増殖が必要との考えから、まずは好気性の菌の培養を始めました。しかしこれは醗酵熱が予想以上に強かっ たため作業は難航を極め、3~4年は続けてみた後に継続を断念せざるをえませんでした。好気性菌の研究は失敗でした。
次に嫌気性なら醗酵熱も抑えられるだろうと考え、試験を重ねて確信を得たのが昭和60年を過ぎた頃です。
嫌気性の菌の第一号はEM菌でした。。培養時の醗酵熱は予想通り少なくその意味では成功だったのですが、永年作物では効果が1年限りで土壌に累積していかないことがわかりました。温室育ちのEM菌は優秀ではある反面、土壌に入るとその農地に元来住む土着菌に殺されてしまうのです。
EM菌での肥料作りを4~5年行った結果、永年作物では効果が少ないと言わざるを得ませんでした。
そこで目をつけたのが、その土壌に昔から住んでいる土着菌です。(さまざまな場所からサンプル採取をした結果、竹藪の中の土着菌がいちばん適しているようです)。その地方の土着菌を培養し農地に返してやると、EM菌では得られなかった累積効果が現れてきたのです。もともとその土地に棲んでいた菌ですから“仲間”と認識され、翌年以降も効果が持続されることがわかりました。
ここにSADAJI農法の基礎が固まったのです。平成2年頃のことでした。その後、菌の培養から肥料作り、施肥の時期、施肥量という独自のシステムを確立し、契約農家に指導しながら地力回復に努めてきました。その甲斐あって、平成14年、契約農家のひとつである熊本県の五條農園が熊本県品評会・茶園の部で『農林水産大臣賞』を受賞しました。そして、現在も契約農家には、施肥時期に合わせて土着菌肥料を提供し続けています。
EM菌は琉球大学の比嘉照夫教授によって開発された土壌改良用資材の名称で、EMとは「有用」(Effective)と「微生物」(Micro-organisms)の頭文字を組み合わせた造語。自然界に存在する微生物の中から、作物生産に有効な善玉菌を集め、それを組み合わせて培養した液体のこと。
五條農園 写真は実生茶の栽培茶園
五條農園(平成14年度) 熊本県品評会・茶園の部
1.その地方の竹藪から微生物(土着菌)を採取する。
2.糖蜜とカテキンにより善玉菌を液体培養する。
3.培養液にさなぎ・カニ殻(動物性有機質)と米ぬかを混ぜ、堆積し醗酵培養する。
4.醗酵させた後、魚粕を混ぜ出来上がり。
5.出来上がった動物性醗酵有機質肥料(土着菌肥料)を農地に施肥する。
・農業用は、1反当たり200kg(10俵)施肥する。それを年2回、春先新茶前と2番茶後に行う。
・家庭菜園用は、栽培の都度、1坪当たり1kgで十分。