山英
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山崎英利のお茶語り 〈山英社長のコラム〉

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17. SBSラジオ「石川美知子のあなたと語る食の原風景」での対談から VoI.4(2012年7月放送)

自分が子どもの頃は、昭和30年代後半なのですが、その時分は今のような加工食品というものがほとんどなく、あったとしても日坂の田舎にはなかなか回ってきませんでした。ですから、家に帰ってくると、夏だったらきゅうりやトマトがざるに入って流しの横に置いてあって、それにちょっと塩を塗って食べたり、そうしたことが生活のほとんどでした。冬だったら干しイモがあって、それを火鉢やストーブで炙って食べて、そうした自然の甘味というのでしょうか、素材の旨みというものが楽しみで、子どもの頃はほとんど過ごしていました。秋だったら柿があと1週間で熟するかなとか、山に行ってアケビのめぼしいものを探しておいて、1週間たてば色が変わるだろう、2週間でぱっちりはぜて甘味がのるだろうとか、そういうことが毎日の楽しみで、そのものが持つ素材の旨味というものが一番貴重なものとして自分の中にインプットされています。

もうひとつは、例えば春の場合、年が改まるとはじめは御節とかいろいろ食べるものがあるのですが、それが終わって一番最初に訪れるのが御前崎からあがってくる砂干しのわかめです。あの味が極端においしくなるのです。漁師が御前崎でわかめを採ると、砂にまぶして天日干しをします。こうするとカラカラに乾くことなく保存食になるので、使う時に洗って砂を落として煮たりなどします。そういうものを漁師さんが自宅に持ってきてくれるので、それが食卓に上るというのがその時季の楽しみになっています。その後はアサリで大変おいしくなります。そして次においしくなるのがふき、わらび、たけのこなどです。それらが食卓に巡り巡って順々に来るのですが、そうしたものが生活の中で山を見ればあとどれくらいだと楽しみにする、そういった生活でした。

今の話に関連しますが、以前自分が最も好きな食べ物をたずねられた時、アサリの味噌汁と答えたことがありました。その時はなんとなくそう言ったのですが、後でなぜかなと考えた時に改めて気づいたことがあります。それはアサリの味噌汁がおいしい時というのは、まだ周りが穏やかな時期だったということです。アサリに続いてわらびやたけのこがおいしくなってくる時期は、大人の気配が変わるといいますか、子ども心にも見ている大人の雰囲気ががらっと変わってくるのがわかりました。これは今であれば十分理解できるのですが、この地区というのは、特にお茶の農家というものは、一年分の生活費を八十八夜の時季に稼がなければならないので、それを控えてもうせわしい状態になっていたのです。それこそアサリのおいしい時期に言って笑ってもらえた冗談と同じことをこの時期に言っても怒鳴られてしまいます。同じ冗談を言うにしてもアサリを食べている時には笑ってくれる、それが同じようにおいしいものでもたけのこのを食べている時は怒鳴られる。おいしさという点においては同じでも、周りの環境と味とが密接に絡み合って自分の中に記憶されている。そうしたことに思い至るに及んで、アサリの味噌汁という答えが出てきたのだと理解しています。

あの頃にこうした経験があったことは幸せなことだと最近つくづく思います。皆が平常心で、笑いの中で素材の旨みを味わえること、これほどの幸せはないと思います。

2014年4月7日